未来塾通信67



集金マシーンと化した塾産業


■教育は「結果にコミットする」ものではありません。親も教師も不完全な人間です。その不完全な人間がこどもを相手にするのです。こどもの成長のプロセスに寄り添うことで、お互いが、かろうじて成長できる、そういったいとなみです。
 

今の塾業界はこの点を忘れています。いや、最初からそういった視点を持っていないのです。こどもたちの大部分は学校で学び、そこで成長していきます。もちろん知的な面も含めて。それを「受験に役立つ学力」というフィルターを通すことで、こどもたちの知的能力を高めるのに貢献したのは塾だ、と言わんばかりの宣伝を繰り広げます。
 

しかし、現在の塾の本質は単なる集金マシーンだと言っても過言ではありません。大々的に「合格実績」なるものを掲げ、1教科あたりの単価を安く設定し、それを目立つように外壁に大書します。まるで安物の在庫一掃処分です。
 

もはや塾はいかなる意味でも知的な産業とは言えなくなりました。C 級グルメを多店舗展開で売る産業ですね。つまり、採算が取れないと見ると、さっさと店舗を閉鎖し、スケールメリットを生かしてトータルの収益を伸ばす「企業」になりました。
 

私は塾の教師を32年間やってきたので、この変化が手に取るように分かります。そこで、親御さんが騙されないための基礎的な情報を提供してみましょう。
 

個別指導を謳う塾に良い塾はありません。M 光義塾が昨年「ブラック企業大賞・ブラックバイト賞」に輝いたのはご存じのとおりです。そもそも、先生一人に生徒2人又は3人、ひどいところになると4〜5人のところもあります。これで「個別」指導といえるのでしょうか。
 

しかも指導時間は全員で1時間30分。すべての生徒を平等に教えたとして、3人の場合1人最大30分です。これなら講師が一人で3〜4人の生徒を相手に、1時間30分フルに教えた方が断然効率的です。実力もつきます。
 

しかし、現実には4人で1コマ50分という塾もあります。これはもはや「個別」指導ではありません。しかも一コマの授業時間が50分では、実力のつきようがない。これは私の経験から断言できます。
 

ではなぜこのような「商品」を売りに出すのでしょうか。費用対効果を考えて、1コマの見かけの単価を安く設定するためです。これは徹頭徹尾企業の論理です。
 

例えば、週2回、英語と数学を受講するとします。授業時間は1回50分です。これで一カ月の費用がいくらになるか計算してみて下さい。この種の塾は、授業時間が短い割に月謝が高いことを、「個別指導」と見かけの単価を安く設定することでカムフラージュしているに過ぎません。しかも狭く区切られた場所を講師が移動して教えるので、声が聞こえます。集中して勉強などできません。
 

それでも「個別指導」を謳うのは、生徒1人の料金を高く設定できること、大学生や主婦を安い賃金で雇用できることのほかに、それが消費者(親やこども)の求める流行りのスタイルだというのが理由です。これで成績が上がるわけもないのです。上がったように見えるだけです。
 

私が塾を始めた32年前、この業界にはまだ知的な雰囲気が残っていました。学習面では厳しく指導しつつも、こどもの成長を願い、学校と塾の関係に気を配っていた塾教師も少なからずいました。例えば、在野の哲学者で『日本精神史』の著者でもある長谷川宏氏など。塾を始めたばかりのころ彼の『赤門塾通信』を読んでは励まされていました。
 

しかし、目を血走らせた「ビジネスマン」がこの業界に目をつけ、事態は急速に悪化していったのです。社会が劣化の速度を速めるのと並行して、教育産業も劣化していきました。そこで失われたものは、こどもがこどもでいられる空間と時間です。個別指導という授業形態を含め、「ビジネスマン」や「経済学」が教育にもたらした影響について次回以降も書いていきたいと思います。