正統派の英語力をつけるために。


1,  NEW! 英語の実力をつける上で何より重要なのは、単語を日々確実に増やすことです。基礎的な文法力を身につけることはもちろん必要ですが、英語が苦手な人に共通する致命的な欠点は、語彙を増やすための具体的な努力をまったくしていないことです。読解のための変なテクニックは知っているのに、単語力が驚くほど貧弱な生徒が増えています。語学の勉強はまず単語からだということを肝に銘じてください。外語大時代4ヶ国語を自由に操る、語学が抜群にできる友人がいましたが、彼の勉強方法はまず身の回りの単語を2000語無条件に覚えてしまうというものでした。彼の勉強方法は、外国語を学ぶ際の重要なヒントを与えています。英文を読むとき、1ページに知らない単語が5〜10個もあれば、もうお手上げです。最低基準を満たす語彙力すらない生徒に、文脈から単語の意味を類推する方法を教えても無意味です。単語の覚え方は人それぞれだなどといって済ましていられる場合ではありません。あなたが本当に英語力をつけたいと思っているのなら、以下の方法を実行してください。名刺大のカードをたくさん用意する。覚えたい単語を太字のボールペンで読みやすく書き込む。一枚のカードに一つの単語を書き、その下に小さな字で用例を書き込む。10枚くらい作ったら、英語を見て即座に日本語の意味が言えるように復習します。この際、思い出すのに1秒以上もかかっていたのでは、まともに英語を読むことなどできません。これができたら、次の10枚を作ります。こうして、1日に20枚ほど作ったら、正解できたものと間違ったものを別の束にするなり、boxに入れるなりして分類し、翌日必ず復習します。やってみたら結構しんどいですよ。夏休みに予備校の夏期講習に通って,講師のパフォーマンスに感心している暇があったら、夏休みの40日間朝から晩までこの方法を試してみてください。1日で覚えて1日で忘れる、賽の河原式の学び方の2〜3年分は覚えられます。そして、確実に英語力がつきます。自分で苦しみながら泥臭い勉強を続ける以外に実力をつける方法などありません。今回ここで述べた内容をより具体的に実践するためのカードを作りました。コロケイションを中心にした、シンプル(simple)で持続可能な(sustainable)方法だということで、「英語S.S card」と名づけました。現在市販されているどんな種類のカードとも違う、まったくオリジナルなカードです。実際のカードは名刺よりかなり大きく、pdfファイル14ページにわたる使用説明書が付いています。是非、ご覧下さい。ところで2011年1月25日のヤフーニュースに『ひきこもり期間7年間に英語を勉強、TOEIC990点23回とり続けた男』と題する記事がありました。私がここで書いた勉強法と全く同じ方法が書かれているので参考のために以下に引用します。
 
 グローバル企業が「社内英語公用化」を打ち出し始めた今、「英語は苦手だから・・・」なんて言ってられない。これまで海外渡航経験はなく、1993年から7年間ひきこもり生活に入り、英語をひたすら勉強し続けた結果、英語を完全にマスターしたという菊池健彦さん。現在ではTOEIC990点満点を23回連続で取り続け、イングリッシュ・モンスターという異名をとる彼に「独自の勉強法」を聞いてみた。
 
「ひきこもり期間、1日12時間は勉強していました。英語の勉強を始めたとき、発音は決定的なギャップがあるので難しいけれど、読むことなら100%バイリンガルになれるんじゃないかと思ったんです。具体的には、とにかく繰り返し覚えるということ。単語カードに覚えたい単語を書いて、英語から日本語、日本語から英語と覚えるまで読む。何日か後、再び見ると僕の場合、きれいさっぱり忘れていて『自分はなんてバカなんだ!』と頭をかきむしりながら繰り返す。それでまたしばらく放っておいて・・・・と、その繰り返しですね。覚えにくい単語とその同義語の単語帳を作り、語彙を広げる工夫もしました。ヒアリング、スピーキングに関しても、ひたすら繰り返して聞く、そして同じ発音になるまで繰り返し発音してみることを繰り返しました。カラの麺カップで発音トレーニングギアを作り、自分の発音を何度も聞き直しました。万人向けの英語上達コースなんて、そんなものはないんです。流暢に会話ができればいいのか、発音は下手でも読み書きはパーフェクトにできる英語を身につけたいのか。人それぞれ目指す英語は違うわけだから、自分なりに工夫すればいいんです」

以上です。

要するに外国語の学習で大事なことは

(1)ひたすら繰り返すこと
(2)語彙力をつけること
(3)いかなるレベルの英語力をつけるのか目標をはっきりと定めること
(4)自分なりに工夫すること

という、至極平凡なことですが、いざ実行となるとなかなか出来ないことです。特に(4)の「自分なりに工夫すること」が、現在の中・高校生に決定的に欠けているような気がします。勉強方法を工夫することは楽しいはずなのに、それをせず、すぐに誰かに頼ってしまう。その結果、最悪の勉強方法を最善の勉強方法だと信じ込まされてしまう。そういった悪循環に陥っているような気がします。
2, 辞書を克明に、粘り強く、毎日、黙々と、例文をおろそかにせず、アクセントの位置に注意して、わからない単語が含まれている英文を何度も読んだ後で、必ずアンダーラインを引いて、次の日に見直すためにポストイットを貼り付けて、一冊引き潰すくらい引いて下さい。これを中学生のときにやれば、あなたの英語力は将来飛躍的に伸びるでしょう。現在出版されている中学生向きの学習英語辞典にはすばらしいものがあります。英語を学習し始めた中学生のときに、辞書を引くことの楽しさ、面白さ、そして言葉に対する感度をとぎすますことを教えない教育は、受験に特化したうすっぺらな人間を育てるだけのような気がします。社会人にも、復習のために中学生用の辞書を一気に読むことをすすめます。私が中学生のときに通っていた英語塾のN先生の辞書は、私を圧倒するのに十分でした。分厚い辞書のあらゆるページに書き込みがあり、赤のインクでアンダーラインが引かれていました。端の方はめくれあがり、背表紙は擦り切れてボロボロでした。茶の間のちゃぶ台の上に開いたまま置かれていた先生の辞書は、レンブラントの絵のようで、いまでも鮮やかに記憶に残っています。私の原点と言ってもいい光景です。
3, なるべく早く英英辞典に切り替える。英和辞典で訳語をあてはめただけでは、英文の本当の意味はわかりません。英英辞典を引かなければ不安でしょうがないという状態を、一度は経験しなければだめです。英英辞典を引き潰したことのない人に、英語を習っても得るものは少ないでしょう。私の授業でかなり多くの手間と時間をかけているため、ここで詳しく説明することができません。以下に英英辞典を引くための手引きとなる必読書を挙げておきます。ぜひ書店で手にとってみてください。英語の勉強が単調な暗記作業から、スリルのあるものに変わります。
 ・ 『英英辞典活用マニュアル』(正)(続)
     磐崎弘貞著 (大修館書店)
 ・ 『英語力を上げる辞書120%活用術』
     住出勝則著 (研究社)
4, NEW!語彙力増強法追加。もしあなたが大学受験生であれば、以下のことを実行してください。必ず実力がつきます。ただし、きついですよ。塾生で全国でトップクラスになった生徒は,以下の過程をきちんと踏んだ生徒です。
(1) 文法をはじめ、あらゆる知識を総動員して、6〜7個のパラグラフから構成されている英文の意味を正確に理解する。特に冠詞には注意する。
(2) 理解したものをひたすら音読して復習し、音読のスピードで英文の意味がわかるようになるまで練習する。付属のCDがあればシャドーイングに利用する。
(3) こうしてスピード感を獲得した問題を1題1題増やしていく。

このステップをきちんと踏んで10題ほどやると、自分でも実感できる飛躍が訪れます。より具体的に言うと、論理展開が正確で筆者の主張が明確な、7〜8個のパラグラフからなる、かなり長い英文を完璧に暗唱します。その際、単なる丸暗記では長文読解力はつきません。踏むべき手順があります。各パラグラフのトピックセンテンスを暗唱し、キーワードを英語で言い、各パラグラフが論理的にどのような関係になっているかを確認します。たとえば、前段落の例示なのか、根拠付けなのか、反証なのか、を考えるのです。この作業が口頭でスラスラできるようになって全文暗唱に移ります。これを10題やるのです。この過程を抜きにして、ただプリントの穴埋めをやったり、日本語に訳して終わる勉強を何年続けても、決して英語力はつきません。最終的には、自分の志望大学の問題にこの方法を適用し、過去数年分の問題を練習用のプリントにします。なにより大切なことは、外部のモノサシを頼りにするのではなく、「おっ、できるようになったぞ」という、自分の実感を頼りに進むことです。具体的には、初めて見る英文がかなりのスピードで読めるようになります。同じ英文を繰り返すという地道な作業を抜きにして、長文がスラスラ読めるテクニックなどないと覚悟を決めることです。Yゼミナールのいんちきパラグラフリーディングなどに、飛びつかないようにしましょう。最後に、大学受験はもちろん、大学入学後も社会人になっても、英語で苦労したくなければ、以下の参考書を文字通り必死でやってください。この参考書に、大学受験生のときに取り組めたあなたは幸運です。英語の文法力に関して最新の知見が、表現する側の観点から述べられています。予備校系の参考書にも良いものがごく少数ですがあります。しかし、実力をつけるために使う参考書と、入試問題の解法のテクニックを載せただけの参考書を混同してはだめです。予備校講師の名前を付けた「○○の英文読解」等の参考書が毎年次々に出版されていますが、英文読解の方法がそんなにたくさんあるのでしょうか。教えてもらいたいものです。

・ 『わかるから使えるへ:表現英文法・GFE』 田中茂範著 (コスモピア)
・ 『英文構成法』   佐々木高政著  (金子書房)
・ 『例解 和文英訳教本』全3巻  (プレイス)

ところで、09年のオバマ大統領就任演説の中に次のような一節があります。

To those who cling to power through corruption and deceit and the silencing of dissent, know that you are on the wrong side of history.
これを「腐敗や欺き、さらには異議の沈黙により、権力にしがみつく者たちよ。君たちは歴史の間違った側にいる」という訳文を掲載していたメディアがありました。このへたくそな日本語は置くとして、「異議の沈黙」とは何のことか。意味不明です。そこで原文を見ると、silencing of dissent となっています。この silenceing は 「silence=黙らせる」という他動詞の動名詞で、 of は目的格の of なのです。したがって、ここは「権力に異議を唱える者を黙らせる」という意味になるのです。大メディアもこのレベルです。

あるいは、『ドラゴン・イングリッシュ』で有名な、竹岡広信氏の「基本英文100」のテキストの第1文。「ウイスキーのボトルを2本も空けて車を運転するのは危険だ」を、「It would be dangerous to drink two bottles of whiskey and drive a car. 」と英訳していますが、これは日本語の語順に引っ張られた英語でしょう。情報提示の順番を考えれば、「飲むのが危険」(ウイスキーを飲むのは別に危険ではないですからね)よりも「運転するのが危険」が先に来なければおかしい。つまり、It would be dangerous to drive a car after drinking two bottles of whiskey. という素直な英語にしたほうがよい。さらにもう1例。「混雑した電車で、2人分の席を占領して平気な顔をしている人を見ると本当に腹が立つ」の英訳は次のようになっています。「People who don't feel guilty about occupying two seats on a crowded train really make me angry.」これは受験英語の第5文型に余りに毒された英語ではないでしょうか。I get angry with the people 〜で始めるべきでしょう。それにしても、こういった例文を「日本語だけ見て英文が書けるように、ひたすら繰り返して暗記する」ことで本物の英語力がつくのでしょうか。氏に言わせれば同書の「英文は、教養あるイギリス人とアメリカ人の厳密なチェックを受けて」いるということですが、どういう会話を交わしながらチェックを受けたのか知りたいものです。


最後に一つ問題です。

The principal of the school I went to did't talk like the teacher who all the students thought was best.

という英文の訳を「私が行った学校の校長先生は、すべての学生が最善だと考える先生のように話さなかった」と書いて、できたと思っているなら、日本語力・英語力ともに不安です。「すべての学生が最善だと考える先生」とはいったい誰のことですか。あなたは答えられますか。大学に受かればいいんだろう、と考えているのなら何も言うことはありませんが。正解は「私が行った学校の校長先生は、全生徒が一番良い先生だと考えている先生なのに、話し方はそれにふさわしくなかった」です。この2つの訳の間にある溝の深さがわかるでしょうか。テクニックで超えられる溝ではありません。

おまけ:語彙力増強のための具体的アドバイス>>>ホームページに寄せられた高校生からの「具体的な参考書名を挙げて大学受験に役立つ単語の覚え方を紹介してください」とのリクエストにお答えします。現在出版されている参考書で語彙力増強に役立つと思われるのは以下の3種類です。

    (1)英単語ピーナツ-銅・銀・金メダルの3冊-(南雲堂)
    (2)システム英単語(駿台文庫)
    (3)DUO(ICP)

(1)および(2)はコロケーションを取り入れた単語集です。(3)はコロケーションのとらえかたが分かった後で使うと効果は倍増します。問題はこれらのテキストの知識をどうやって自分のものにするかということです。同じ参考書を使い、同じ授業を受けているのに実力に雲泥の差が出るのはどうしてでしょう?それは、インプットの質と方法の差です。頭の良さとは「質の高いインプットの方法を自分のものにしている」ということを意味します。インプットの質が劣っていればアウトプットの質も必然的に劣ります。英語の場合、インプットの質は英作文をさせてみればすぐにわかるのです。教える側はこの点を指摘して、それを克服するための具体的な方法論を提示すべきなのです。そうでなければ、プロの教師とは言えない筈です。私はこれを「英語 S.S card」を作る事によって提示しています。pdfファイル14ページ分の使用説明書が付いていますが、この使用説明書は絶えず進化しています。改訂を加え100ページ以上になる予定で、1冊の独立した参考書としても使えるようにしたいと考えています。是非、TOPページからアクセスしてみてください。なお、英語の先生および社会人で語彙力をさらに伸ばしたいと考えている方のために、すぐ手に入る市販されているテキストを2冊紹介しておきます。

     (1)バーナード先生のネイティブ発想・英単語(河出書房新社) 
     (2)バーナード先生のネイティブ発想・英熟語(河出書房新社)

1, 番外編:若いお母さんへ。こどもに英語力をつけたければ、まずなりよりも、日本語の実力をつけてください。学校の授業に依存することはできません。「大村はま」のような先生に出会うことは、現代では奇跡に近いと思います。まして、進学塾のペーパーテストで国語力をつけるなど、たちのわるいジョークです。言葉は、まずなりよりも話す人間の文化度、教養度を表します。その土台は家庭にあります。家庭の文化的土壌がやせていれば精神の豊かなこどもが育つはずはありません。こどもが素晴らしい日本語の使い手になるように育てましょう。英語の早期教育を受けさせる暇とお金があったら、世界中の名作が買えます。本の読み聞かせをしてあげましょう。同じ本を何度も何度も。そして、4歳くらいになったら読んだ本のストーリーを、自分の言葉で再現させるようにします。ここから、伝達のための言語技術の発達が始まるのです。英語ペラペラとよく言いますが、話す人の母語のレベルが低ければ、きっと頭の中もペラペラです。英語力は母語のレベルを超えることはないのだということを忘れないようにしましょう。そうすれば、英語が話せないのは英会話を教えてもらってないからだという言い訳が、実は、社会を分析的に見る力、精神的に自立する力、そして自分自身の運命を形づくっていく力を奪い取り、英語ができない原因を正面からみつめることができないようにしていることに気づくでしょう。私のこれまでの経験から言って、お母さんが本当の意味で知的なら、こどもが知的に育つ可能性は極めて高いのです。こどもをしっかり育てて自立させること、そしてそのこどもたちが自分たちに何を投げ返してくるか楽しみに待つ。これが親となったことの最高の喜びだと思うのですがどうでしょうか。