未来塾通信64


高校英語−前置詞+関係代名詞 2


■「前置詞+関係代名詞」の解説をしなければならないのですが、その前に少しだけ触れておきたいことがあります。「前置詞+関係代名詞」の問題を解くことよりも、もっと本質的で重要なことです。

 

さっそく始めましょう。

「先日図書館から借りた本を読んでいた」を英訳するとしたら、以下の二つの英文のどちらがよりふさわしいでしょうか。その理由も考えてみて下さい。

 

1:I was reading a book I borrowed from the library the other day.

2:I was reading the book I borrowed from the library the other day.

 

前回も書きましたが、最もよくある間違った説明は以下のようなものです。

 

説明その1:「関係代名詞節 I borrowed from the library the other day. で限定されているのだから、a bookではなくて、 the bookでなければならない。」

 

説明その2:「初めて使う名詞 bookには a をつける。次に使う名詞には the をつける。この英文の場合 book に the をつけてもいいけど、a の方が普通だから、a にしよう」

 

う〜ん、こんな説明を真に受けているとしたら、あなたは英語学習の第一歩からつまずいています。念のためにネイティブスピーカーに聞いてみるといいでしょう。間違いなく笑われるか、無視されるでしょうね。それどころか、あなたの知性を疑われます。でもこの2つの文の違いを説明するのはネイティブスピーカーでも難しいと思います。あまりに当然のことで、ふだん意識にも上っていないことですから。

 

しかし、この点こそが英語ということばの本質であり、コミュニケーションに欠かせない点なのです。この際、上の2つの説明はただちに頭の中から delete(削除)してください。

 

答えを言いましょう。2つの英文は文法的にはどちらも正しいのです。説明その1は間違いです。もちろん、説明その2も論外です。2つの英文のうち、どちらがふさわしいかは、相手に伝えようとしている情報や状況によって異なります。これが答えです。

 

「え〜、それが答えですか。何か割り切れないな〜」とぶつぶつ言っているそこの君。ことばはコミュニケーションのためにあります。受験に合格するためのものではありませんよ。受験のために「割り切る」学習はもはや完全に時代遅れです。業者によって要領よくパッケージングされた知識をインプットするだけの「割り切る」学習は、社会では役に立ちません。これからは何の分野であれ、本物だけが生き残っていくのです。どうです、やりがいがあるでしょう?その過程でニセモノが大量発生するでしょうが。

 

説明を続けます。まず、a や the は名詞につける飾りではありません。話の中で指しているもの(この場合は本)の個体情報を相手に伝えて、コミュニケーションを円滑に進めるためのキーとなることばです。

 

大切なところなので繰り返します。今、話し手は本について言おうとしています。しかし、本は世の中にたくさんありますね。でも世の中にたくさんある本のうち、自分の言っている本と、相手が頭の中で思い描いている本が一致するかどうかが、コミュニケーションがうまくいく重要なキーとなるのです。あたりまえですね。

 

「けさ、リンゴを食べたよ」というときのリンゴは、「どのリンゴ」か、相手にわかるわけがありませんし、わかる必要もありませんね。これでコミュニケーションは成り立っています。つまり、相手が頭の中で思い描くリンゴが、話し手の言っているリンゴと一致しない、あるいは一致する必要はないのです。このことを、英語では a(an) を使ってあらわします。

 

「リンゴ、ありがとう。とても美味しかったよ」というときのリンゴは、常識的に考えて、話し手が相手からもらったリンゴを指しています。だから、相手にもそのリンゴを思い浮かべてほしいですね。相手が全然違うリンゴを思い浮かべたら、話がずれておかしくなってしまいます。この場合、相手の思い描くリンゴが話し手の言っているリンゴと一致していないと困ります。この必要に応えるために、英語では the を使います。

 

英語では話の中でものを指すたびに、この2つの場合のどちらなのかという情報を相手に伝えることになっています。日本人のように、何の話をしているのかわかっているよ、ということを伝えるために、しきりにうなずいたり、あいづちを打ったりする必要はないのです。英語のネイティブスピーカーと話すとき、うなずき過ぎたり、相手があいづちを打ってくれるのを待ったりしていると誤解を与えるおそれがあります。ここまで説明すればもうおわかりでしょう。

 

「先日図書館から借りた本を読んでいた」を英語で表現するときには、まず、図書館から借りた本のことを相手が知っているかどうかを考えます。知らなければ、「あなたが想像している本は、私が言っている本と一致していなくても、どれでもいいよ」という情報を、a を使って

 

a book I borrowed from the library the other day.

 

という形で伝えます。

 

一方、いっしょに図書館に行くなどして、相手が借りた本のことを知っていれば、その本を想像してほしいので、「ほら、あの本のことだよ。どの本のことかわかるよね」という情報を、the を使って、

 

the book I borrowed from the library the other day.

 

という形で伝えます。

つまり、a book の後に続くI borrowed from the library the other day. という関係詞節は、必要ではなく、「言ってあげた方が親切な」情報だということになります。それに対して、the book の後に続く関係詞節は the が要求する「必要的な」情報なのです。

 

次回は初歩の初歩に戻って、この点をもう少し詳しく説明します。いずれにせよ、以上説明したことがわかっていなければ、英語の初歩でつまずいていることになります。決して大げさではありません。次回の説明を読めば、おわかり頂けると思います。