未来塾通信49


曽呂利新左衛門の知恵(2014:3:25)

■高校生の皆さんは、曽呂利新左衛門(そろり しんざえもん)の逸話をご存知でしょうか。
簡単に紹介します。
「むかし、曽呂利新左衛門(そろりしんざえもん)という人がいました。豊臣秀吉のおそば近くで、話し相手などをつとめていました。たいへん頭のいい人だったそうです。ある時、秀吉はたいそう新左衛門をほめて、ほうびを与えることにしました。ところが新左衛門は大金などほしがらず、お米を1粒ほしいと言いました。ただし、きょうは1粒ですが、明日はその2倍の2粒、3日めはさらに2倍して4粒…というように毎日2倍して、一ヶ月間続けてほしいと言うのです。なんと欲のないこと!! 秀吉はとても喜んで、その申し出を受けいれました。ところが! 日を追うごとに秀吉が新左衛門にあげなければいけないお米はどんどん多くなっていきました。10日目には512粒。15日目には16384粒。20日目には524288粒。このままいくと約束の30日目のお米は536868864粒で、1日目から30日目まであわせると、米俵で450俵、石高で180石になってしまいます。ちょっとしたほうびのつもりが、こんなにたくさんのお米をあげることになってしまうとは!! 気づいた秀吉は新左衛門にあやまって別のほうびに代えてもらった」という逸話です。これは、1粒のお米も毎日2倍にすることで、1ヶ月後にはとても大きな数になる事を新左衛門が知っていたからできたことです。高校数学で習う「等比数列(とうひすうれつ)」の考え方を利用しているわけです。
また、次の問題も有名です。
「新聞紙1枚を半分、また半分と折り続けると、月まで届くまでには何回折ればよいでしょう」

一枚の紙を半分に折ると厚さは2倍に、
もう一度折ると、4倍に、と増えていきます。
折った回数をNとすると、2N倍になります。

元の紙の厚さを0.5mmとすると、N回折った時の厚さは
2N×0.5 mm です。

月までの距離を38万km(3.8×1010mm)とすると、
38×104×106=2N×0.5
N=35.1
36回折れば届くことになります。

こういった基本的な発想は、理系文系を問わず知っておかねばなりません。
なぜこんなことを言うかというと、菊池誠・大阪大学サイバーメディアセンター教授なる人物がツイッターで次のようにつぶやいていたからです。
「セシウム137が1グラムあると、だいたい3テラベクレル。とんでもなく多い。もしそれがコップ一杯の水に溶けているとして、10倍に薄めることを30回繰り返すと、コップ一杯の水にセシウム137は1原子も含まれなくなる。10倍希釈を30回繰り返すこと自体はそれほど大変ではない。2013年8月1日3:21PM」
この教授はつい最近2014年3月21日にも、次のようにつぶやいています。
「ストロンチウム90の預託実効線量は同一ベクレルのセシウム137のたかだか2倍くらいなので、微量のストロンチウム90を気にするよりはセシウム137を気にするほうがずっと意味があるね。放射能汚染水だって、タンカーみたいなもので運んでいって海に薄〜く広〜く撒けば、害はまったくない。それができないのは、やってはいけないことになっているから」
やれやれ、この教授はなぜ「やってはいけないことになっている」のか調べようとも思わないようですね。後段の詳細は置くとしても、前段の内容はそろり しんざえもんでも、のけぞりそうな内容です。

では、菊池誠・大阪大学サイバーメディアセンター教授が言うように30回10倍希釈を繰り返す(しかも簡単らしい)とどうなるのか検討してみましょう。

もとの水を1ccとします。すると、最終時に必要な水の量は、1030ccとなります。全体を合計すると1031-1 ccですね。(高校で学ぶ知識)

地球上にある水の量は、すべてをあわせると14億km3にもなります。そしてその97%あまりが海水で、およそ13億5,000万km3になります。ですから地球上の水のほとんどが海水だと言ってもよいでしょう。(穀物を栽培するためには淡水が必要になりますが、この点だけを考えても人類の未来は危機的状況になります。しかし、これはまた興味ある別の問題です)だと考えれば海を面積でみるとおよそ3億6,000万km2になり、地球表面の70%です。海の水の量や成分は、20億年ほど前からほとんど変わりがありません。

14億km3=1.4x109km3
=1.4x109x109m3
=1.4x1018x106cc
=1024cc

だいたい、1024ccの水があるわけです。つまり、菊池誠・大阪大学サイバーメディアセンター教授がいうところの簡単な10倍希釈30回というのは、地球上ではもはやできない希釈というわけです。この教授にはさらに落ちがついています。あろうことか、この人物は「デマ科学を撲滅する」として、マスコミにも登場しているのです。最近では本も出しています。日本の「科学」レベルがわかろうというものです。それにしても、高校生レベルの知識を持たない「理系」大学教授って・・・。
これと同じレベルの文系的知識によれば、アベノミクスの本質も理解できます。難しいことは省いて、おおまかに日本の経済構造を捉えれば、アベノミクスは国民生活に寄り添う政策ではないことがわかります。
そもそもインフレは、借金をしている者に有利な経済政策で、債権者には損害を与えるものなのです。つまり、インフレ政策は政府に有利な政策であり、国民にはひたすら不利な政策なのです。日本経済全体をマクロな目で見た場合、債権者は間違いなく国民一人ひとりです。では債務者は誰かと言えば、日本の政府・財務省です。
自分たちは債権者なのだという事実に国民が気づかないように、経済学者やアナリストたちは日々巧妙な言い換えをしています。NHKやマスメディアの手にかかると、国民一人当たり、赤ちゃんも含めて、借金792万円ということになるそうです。これは、噴飯もののレトリックです。にもかかわらず、多くの国民が、一人当たり792万円の借金とか、1000兆円の借金とかいう欺瞞言語を信じているのですから、無知ほど怖いものはありません。 
つまり、債務者である日本政府が、債権者である国民に向かって、「お前たちは、一人当たり792万円の借金を抱えているんだぞ」と言っているのです。「オレオレ詐欺」の方が、財務省のプロパガンダよりも悪質度においてマシだと言えます。その上さらに消費税を10%まで上げようとしています。国民は「子供や孫たちのためにも、借金は返さなければ」と考えて、消費増税もやむを得ないとあきらめているようです。財務省の論理をこれほど素直に信じる国民もめずらしい。私たちは日本国政府に対して、「貸した金を返せ!」と言う権利を持った債権者なのです。しかも、債務者である政府は借金を踏み倒すつもりなのですから、国民の人の良さは空前絶後だと言わなければなりません。「日本人ほどすばらしい国民はいない!この国を守るために集団的自衛権は必要だ!」というプロパガンダを信じる人も、結構な数いるようですから、何をかいわんやです。歴史的洞察力を欠いた国民がどのような末路をたどるかは明らかです。
高校生の皆さん、素朴な疑問や批判に耐えられるように、高校時代はしっかり勉強しておきましょう。そろり しんざえもんに笑われないようにね。